社会や音楽etcについて

 

メルケル演説 2019

2020.01.10

はじめに

ドイツのメルケル首相が2019年12月6日にポーランドのアウシュビッツ強制収容所を訪れた際にナチスの戦争犯罪・ホロコーストについて演説した。この演説は1985年にヴァイツゼッカー大統領がドイツ国会で行なった演説に匹敵する。歴史的演説である。

 

メルケル演説

メルケル演説は簡明な言葉で力強く語られている。彼女がドイツ政権のトップを長く務めたことが分かる。YouTubeに出ていた動画に日本後の字幕を、在ドイツのフリー翻訳者・梶川ゆうさんが入れた。それをYouTubeで見ることができるのは有難いことである。
動画は15分ほどの短いものです。是非、ご覧ください。

 

メルケル首相の演説(アウシュヴィッツ・ビルケナウ基金) 
https://youtu.be/vVuX99hwYnI

 

第二次世界大戦後のドイツは国際社会に復帰するために種々の努力をしてきた。それは今も続く。その根幹はナチスの犯罪を謝罪し、過去の過ちを2度とくり返さないことを国民に周知することである。メルケルは再度、公式な場で謝罪をした。

 

演説で、メルケル首相は「若い人に責任はない」が「過去にドイツが行なった過ちを忘れてはいけない」と訴える。これは1985年にヴァイツゼッカー大統領が述べたことと同じである。

 

旧都クラクフ

アウシュビッツ収容所とビルケナウ収容所はポーランドのクラクフの郊外にある。クラクフはポーランドの古い首都であり、日本の京都に相当する。不思議なことに、クラクフはヒットラーにもスターリンにも攻撃されなかった。噂では、ヒットラーとスターリンの両人が何故かクラクフを気に入っていたため、旧都は破壊から免れた。戦前の姿がそっくり残されている。ユダヤ人を封じ込めた区域のゲットーが残っている。クラクフは著名な天文学者のコペルニクスを生み出した。

 

私が1976-1978年にドイツの原子力研究所(KFA)に滞在した際に、クラクフから来た仲間と親しくなった。クラクフに立ち寄った時、友人のR.Bにアウシュビッツへの案内を頼んだ。しかし、彼は案内を断った。その理由は、ユダヤ人だけがアウシュビッツで殺されたようにイスラエルが嘘の宣伝をしているからだった。彼の説明によれば、アウシュビッツで主に殺されたのはポーランド人。正しく言えば、主にユダヤ人が殺された場所はビルケナウ収容所とのこと。

 

友人R.Bの話によれば、戦時中にポーランドの優秀な人材(将校、大学教授、知識人など)がヒットラーとスターリンによって抹殺された。故に、ポーランドが再生するには長い年月がかかると。1991年にソビエト連邦が崩壊する頃、R.Bは物理学研究者を辞めて国会議員になると公言していたが落選した。残念でした。

 

ドイツの贖罪活動

戦後のドイツはナチスが行なった蛮行を反省する活動・教育を絶えず行なって来た。私のドイツ留学を支援したプログラムはフンボルト財団による科学研究者招聘である。毎年、世界中から約1000名の若手研究者を招く。滞在費と旅費を負担する。フンボルト財団の狙いは、ドイツのサポーターを毎年1000名生み出すことだと私は思っている。更に、学生に対しては、ドイツ学術交流会(DAAD)が奨学金を提供する。

 

国内の人々に対しては、ホロコーストの解説を行っている。その一例に偶然、2007年に出会った。ケルンに住む知人の音楽家を訪ねるためにケルンで下車し、駅の外へ出た時である。聳え立つケルン大聖堂脇の駅前広場に古そうな貨車が一台展示されていた。戦時中にユダヤ人などを輸送した貨車である。貨車内で展示説明が行われていた。先を急いでいたため、貨車の中に入ることなくその場を去った。

Kasha

ユダヤ人などを強制収容所に輸送した貨車

ドイツ・ケルン駅前 2007.2撮影

 

しかし、地道な歴史教育にも関わらず、ドイツではドイツ・ファーストの右翼政党AfD(ドイツの選択肢)が力を増している。AfDが伸している地域は旧東ドイツであり、そこはメルケル首相の出身地である。メルケルは旧東ドイツの出身であるにも関わらず、旧西ドイツが始めたホロコースト懺悔を継承して中東やアフリカからの難民を受け入れた。それに対してAfDは反旗を振っている。富める西と貧しい東の分断・対立である。

 

日本では

ヒットラー・ドイツと同じく日本もアジア諸国で蛮行を働いた。慰安婦、徴用工、南京虐殺など。しかし、日本は他者への加害について鈍感である。戦争による自分達の被害が強調される。

 

韓国の慰安婦および徴用工に対する木で鼻をくくる対応。他者への加害の懺悔がないまま、既に謝ったから事は済んでいると政府は言う。ドイツは絶えず謝り、日本は既に終わったこととする。慰安婦や徴用工の話には間違いがあるからと言う理由で全否定をする。南京虐殺の場合、中国が主張する犠牲者数に誤りがあるから、否定する。

 

要するに、枝葉末節な事項で事実を否定する。戦争に負けた日本がやるべきことではない。自国が行なった戦争犯罪に細かい突っ込みを入れることはナンセンスである。勝ち目のない喧嘩をするようなことである。

 

学校では日本が戦争中に行なった蛮行を教えない、触れない。歴史教科書の中には内容を書き換えるものが出てきた。政権を司る政府高官には歴史を学ばない人が多い。歴代の政治家による談話も甘い。現政権の安倍総理に至っては韓国との揉め事を解決しようとする意思が見えない。

 

韓国、北朝鮮に対しては絶えず謝罪しなければならない。自分に責任がないにしても、歴史を学び、謝罪しなければならない。

中国に対しても同じである。

 

終わりに

日本が  Japan as number one と煽てられていたのは過去のことである。労働人口が減少する日本の経済力は徐々に落ちていく。労働力の不足を補うためには外国人を受け入れて共に働く道をとることになる。それでも、インドやインドネシアに追い越される日がくる。井の中の蛙のような鎖国状態の精神では未来がない。 アジアの近代歴史を学び、太平洋戦争で与えた被害を絶えず謝罪しなければならない。

 

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